FASHION / kimono

一目惚れした帯とのご縁。

『そろそろ着物なお年頃』 その参


 

草履も誂えたし、いよいよ着物である。ほしいのは、あらたまった席の着物ではなく、あくまでも普段にカジュアルに着られる着物。そう、洋服をあれこれコーディネイトするような感覚で楽しめる着物である。早速、そのファースト普段着を探しに行くこととなった。訪れたのは銀座の呉服屋さん。黒田さん世代の着物好きで知らない人はいないであろう有名店『銀座もとじ』である。

 

以前、訪問着だか付け下げだかと(どちらを持っているか把握していないところも黒田さんらしい・・・)それに合わせた帯というフォーマルな一揃いは誂えたというが、ほとんど初心者と言っていい黒田さんである。はじめて選ぶ普段着には、漠然とではあるが紬が欲しいと思っているらしい。最初に紬を一枚セレクトするのであれば、結城の無地などはおすすめであろう。まずは色や質感などファーストインプレッションで気になる結城を選ぼうということになる。さすがに『銀座もとじ』には、結城がたくさん揃っている。その中で黒田さんがこれかしら、と手に取ったのは、藍色の無地であった。

 

藍色、ネイビーである。黒田さん、得意中の得意の色である。いかにも結城らしいざっくりした質感と、ほとんどワンウォッシュしただけのブルーデニムのような色である。仮着付けしてもらうこととなった。仮着付けというのは、反物をくるくると身体に巻きつけていき、襟から袖までそれらしく作り、まるで実際に仕立てたかのように身にまとわせる呉服屋さんならではのテクニックである。実際に着物になったときの雰囲気がわかるので、本当に着物が買いたいときは良いのだが、試着する者にとってはこれをやられてしまうと買わざるをえなくなる精神状態に追い込まれる危険な儀式でもある。が、黒田さんはそんなことはご存知ない。むしろ、巻かれることを楽しんでいるようにも見える。

 

 

藍の結城に、まずは白地に藍の濃淡が美しい紅型の帯を合わせてみる。白の分量のバランスがよく合わせやすい帯で、洒落たコーディネイトである。次に、着付ける前から「これも可愛いわ。私好みかも」と手に取っていた藍色の帯を当ててみる。白い帯締を合わせてみると、襟の白と呼応して、藍がぐっと引き立つ。「やっぱり、これが好き。すごく可愛い」とご満悦である。結城に合わせ何本か帯を出してもらっていたのだが、どうやらこの帯に一目惚れしたようである。地になる着物が無地だから、どんな帯でも楽しめるといえば楽しめるのだが、ファーストインプレッションが彼女を支配している。

 

このへんの感覚が、長年ファッションを公私共に楽しみ着倒してきた人ならではの「勘」というもので、自分が好きなもの、似合うものを瞬時に判断する能力は、舌を巻くほど鋭い。そして着物初心者であるのに、一切迷いがない。

 

この日はひとまず考えてみるということで、いったんは店を後にした。が、この着物と帯の組み合わせ、よほど黒田さんに強い印象を残したのだろう。後日このひとそろいを買おうと『銀座もとじ』を訪ねたのだそうだ。残念ながら藍の結城は売れてしまっていたが、一目惚れした帯は黒田さんを待っていてくれたのだという。

 

結城のかわりに藍の綿薩摩をすすめられ、その着物にも件の帯はよく映った。なので、ひとそろいお買い上げと相成った。そして、一目惚れした帯との縁は、これで終わらなかった。

 

着物と帯が仕立て上がり、さっそくお友達と一緒に着物で連れ立っておでかけした黒田さん。お友達が、その写真をSNSに上げた。すると、その帯をつくった工房の奥様が写真を見て、「うちで織った帯です。素敵にしめてくださり、ありがとうございます」とSNSに書き込んだのである。ご縁がつながった瞬間だった。それならば、作った人にお会いしていろいろお話を聞きたいし、実際の制作現場にも行ってみたい・・・お友達が紹介してくださって、京都・西陣にある工房を訪ねることとなり、あれよあれよという間にカバーストーリーで紹介させていだくこととなったのである。

 

一目惚れがつないでくれた素敵なご縁。きっと、これからもこういうことはあるのだろうと思う。

 

「一目惚れした帯の工房へ」カバーストーリーvol.5はこちら。

 

◎銀座もとじ 和織・和染(女性の着物専門店)

  • 東京都中央区銀座4丁目8-12 コチワビル1F
  • 電話/和織 03-3538-7878  和染 03-3535-3888
  • 営業時間/午前11時から19時

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