COVER STORY

岡晋吾さんと。

『美しいものをつくる人たちを訪ねて』工芸編(前編)


 

唐津を訪れる少し前に、東京の百貨店で岡さんのうつわを見ました。

安南手の美しい染付や縁がきれいな緑色に染まった白瓷(はくじ)、

まるで花びらのような菊割や、藍でエキゾチックな唐草が描かれたお皿など

どのうつわも、これにどんな料理を盛ろうかしらと

イマジネーションがふくらむものばかりでした。

聞くところによると、岡さんのうつわは料理人にとても人気があって、

「盛映え」すると評判なのだそうです。

ただ美しいと眺めるだけでなく、実際に料理を盛りたくなるうつわ。

その創作の秘密を知りたくて、岡さんの仕事場をお訪ねしました。

 

「天平窯」があるのは、唐津市郊外。

すぐ近くには温泉もあって、のどかな里山の風景が広がっています。

 

入口の戸を開けると、人の気配を察知して

黒のラブラドールくんが、中庭でうれしそうに吠えているのが見えました。

思わずそちらに行きたくなる気持ちを我慢して(犬好きですから・笑)、

まずは作品を展示しているギャラリーにお邪魔しました。

 

さすがに圧巻の品揃え、そこには岡ワールドが広がっていました。

 

 

黒田

今日は、料理が映えるうつわの秘密を探りに来ました(笑)。岡さんのお師匠さんが、料理の先生というのは本当なんですか?

 

 

そうなんです。有田で修行していてそろそろ独立しようかなというときに、志の島忠という大変有名な料理家が有田で懐石のうつわを作るので、助手を探していたんです。絵が描けて、ろくろができて、釉薬もつくれる人間をというので、間に入った人に声をかけていただいて。先生は代々京都御所の料理方の家に生まれ、東京芸大で日本画を学んだ人で。しかも僕がファンだった坪島土平という陶芸家に絵を教えたということも知って、なかなかない機会だし、関わってみたいと思いました。

黒田

料理のプロ中のプロみたいな方なんですね。実際にどんなことをされたのですか。

ところがですね、いきなり段ボールで魯山人のうつわとかをどさっと送ってくるんですよ。今年のテーマはこれとこれで、で、魯山人を見て、このかたちを作ってみろとか言われて。

 

 

黒田

え、魯山人だなんて凄いですね。

魯山人を見ながら、それをお手本に作るじゃないですか。じゃあ先生が言うんです。「岡、見ただろ」「はい、見ました」「じゃあ、もういらないね」と魯山人をしまうんです。しまわれると困っちゃうじゃないですか。

黒田

それってテストみたいなことですか。力量を試されてるって感じですね。

 

 

そう、そこにあるものを自分なりのフィルターで一回消化するという訓練。そうやってものを作っていかないと駄目なんだということを徹底的に教わりました。魯山人以外にも、年に4回くらい先生がやって来るんですよ。そのたびに作るアイテムが決まっていて、そのための土と釉薬を揃えるんです。だけど、有田以外の、萩や美濃とか知らないじゃないですか。人には聞けないし。で、自分で産地まで行って、原料屋さんに現地の作家さんを紹介してもらったり。釉薬はさすがに秘密なんですが、焼き方はたまたま窯入れのときに見せてもらったり、図書館でも調べて、後は想像力で実験しながらやっていきました。

黒田

並大抵のご苦労ではないですね。だけど、その経験がきっと今の岡さんを作っているのでしょうね。

現地でいろいろ苦労しつつ、その経験を身体にしっかり入れたように思います。しかも、自分の想像力もかなり入っているので、ある意味産地のやり方とは違う部分もあって。だけどその完璧でないところが自分のカラーになっているのかなと思います。

 

 

黒田

窯を有田ではなく、唐津に作ったのはどうしてなんですか。

先生に、有田は産業だけど、唐津は城下町で文化に対して熱心な土地だから、そういうものがあるところでやった方がいいよと言われて。ま、福岡も近いし、こっちにいる方が落ち着いていろんなものを見ながらやれるというのもありました。

黒田

いろんな産地でのやり方の経験もおありだから、引き出しがいっぱい。作風のバリエーションも多彩になるんですね。

そうかもしれませんね。ベースは有田ですが、美濃や萩、唐津も勉強して、さらに伊万里とか李朝とかも見て。引き出しっていうよりは、自分の中にあるものをクジを引くみたいな感覚でピッと出すという感じかな。ひも?いちご飴?いろんなものを作ってきたから、アレンジもいろいろできるようになって。

黒田

なんでもできると、いろんなことにチャレンジしたくなるんじゃないですか。個展の時のテーマはご自分で決められるのですか?

 

 

ギャラリーによっては、白瓷だけとか、染付だけというときもありますね。普段、幅広くこなれた絵で終わってしまうときもあって、そういうときはあんまり深くない。だから、ときには制約のある場所があったほうが、僕としては深く入れるので好きですね。

黒田

それはやはり岡さんがお持ちの方法にものすごい幅があって、どうとでも選択できるってことなんですか?

選択というか、たぶん拾ってるだけなんですけどね。目標はこっちなんだけど、そこへ行く過程で違うものが出てくる。で、それも使えるんですよ。普通の人はそれは使わないようだけど、僕は使えるものは使う。よく王道じゃないって言われますが、こんなにたくさん陶芸家がいていろんな種類の焼き物があるのだから、これが王道でこれが王道じゃないと分けることがそもそもおかしいですよね。普通だったら失敗と言われることも、生かし方によっては成功に変わることだってある。

方法ってたくさんあると思うんです。これが駄目なら、あれもある、それもある。もっと自然体というか、できるものを自分で受け止めて、受け止めながらそれを成長させる、ということを心がけています。

 

 

黒田

ぐーっと突き詰めていく方法を取る人もいるし、岡さんのようにすべてを受け止めどんなものも高いレベルで形にできる人もいる。どちらが正解ということはないけれど、岡さんのような幅を持っている人には憧れます。

人間のいろんな顔を切り売りしている感じ。欲が深くなさそうで、実は欲が深いのかも(笑)。

 

◎写真/中村泰

 

◎白瓷(はくじ)とは◎

日本では白磁と表記するのが一般的ですが、岡さんによると石が100パーセント原料の場合は磁器と表記しますが、土などが入ると瓷器と表記するのだそうです。岡さんはとろりと柔らかな肌合いのために、原料にまるで調味料のように土や小石を加え独特の配合で焼いています。そういうときは(瓷)という字を使うのだそうです。

 

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