COVER STORY

庭園美術館へ。

ブラジル先住民の椅子展開催中。これ、必見です。


 

 

 

アリクイの椅子を見に行きませんか?

 

え、何ですか。それ。

 

ジャガーも、サルも、ハナグマも、エイも、

ワニも、アルマジロもいますよ。

 

え、どういうこと?

 

ふふ、それは行ってみてのお楽しみです。

 

 

 

何とも不思議で、魅力的なお誘いをいただいて、白金にある東京都庭園美術館にやってきました。こちらは旧朝香宮邸だった建物で、内装を主に手がけたのはフランス人芸術家のアンリ・ラパン。アール・デコの意匠を積極的に取り入れた美しい建築とインテリアで知られる美術館です。そこに動物たちがいるなんて、ちょっと想像もつかなかったのですが・・・。

 

9月17日までの期間、こちらでは『ブラジル先住民の椅子』という展覧会を開催しています。アリクイの椅子というのは、このことだったのです。通常の順路では、旧朝香宮邸の本館から新館へと観ていくのですが、今回はとくべつに新館から観ることにしました。

 

 

新館は去年11月に訪れた江の浦測候所を造った杉本博司さんがアドバイザーとなって2014年にオープンした現代的な空間。そちらの真っ白な部屋に一歩足を踏み入れると、一斉にこちらを見ている動物たち。

 

わあ、なんだ、なんだ、この楽しい空間。

 

 

たしかに、ジャガーも、サルも、ハナグマも、ワニもいます。驚くことにそれらの動物たちは、すべて木彫りの椅子なのです。部屋の中には大小のフロアクッションが置かれていて、そこに座ると動物たちと目の高さがぐっと近くなる。残念ながら動物たちの椅子に座ることはできませんが、目を合わせて対峙できるよう考えられていて、ゆっくりと過ごすことができるのです。こういう展示のしかた、とても斬新で、誰でもアートと親しめるように考えられているのがとてもいい。

 

 

私もさっそくフロアクッションに腰をおろし、目の前にいるカピバラくんとバクくんたちを眺めます。どちらの動物もメイナク族の手になるもので、とくにカピバラやジャガーを彫った工人ウルフは、椅子制作の名手として知られているそう。動物たちの顔の部分はとても表情豊かで、身体はなめらかで柔らかそうな曲線。今にも動き出しそうなその造形は、たしかに名人じゃなきゃ作れないリアルさ。一点一点、動物たちを思い描きながら、掘り出していったのでしょうか。

 

そもそも、いったいどうしてこんな椅子が作られたのでしょう。

 

 

この椅子たち、ブラジルの先住民たちによって作られたもので、その源流は、先住民の酋長やシャーマン、戦士たちが、村の儀式で使っていた椅子にさかのぼります。かつては霊験を求め、天界の使者を想わせるコンドルや、雨を呼ぶと信じられたジャガーなどの姿が合体されたといいます。やがて、野生動物の姿をとことん単純化させた椅子が作られるようになり、現在も動物彫刻の椅子が作られています。今回、庭園美術館にやって来た椅子はサンパウロのベイ・コレクションからの約90点。すべて丸太からダイナミックに削り出されたものばかりで、まさに圧巻です。

 

新館ではこの椅子が作られる過程のフィルムも上映されています。驚くのは、森の中で木を倒し、丸太をくりぬき、椅子の原型らしいところまで彫る様子。最終のカタチが想像できるくらいの状態になるまでは、すべて森の中での作業なんですね。椅子というと、どうしても木材を切って、座面や背面、足をそれぞれ組み合わせて作るものと思っていましたが(実際、ほとんどの椅子はそうやって製作されます)、ブラジル先住民はなんともダイナミックな方法を伝統としたものだなと感心します。それはもちろん彼らの住んでいた熱帯林の広がる環境に負うことも大きいのでしょうけれど。

 

 

新館から本館へと移動します。アール・デコの本館にこの動物たちをどうやって展示しているのだろうと興味津々でしたが、空中に浮かぶ板に椅子を載せるという素敵な工夫をしていました。贅を尽くした装飾的なアール・デコ空間の中に、プリミティブとも言える先住民の椅子が違和感なく同居している様子は、少し不思議でもあり、でもミスマッチではまったくなく、むしろ庭園美術館という空間の懐の深さを感じるものでした。寄せ木の床にさりげなく置かれたエイの椅子などは、まるで最初からそこにある調度品のように部屋に同化していました。

 

 

こちらの本館、インテリアや調度品を見るだけでも値打ちがあります。正面玄関のガラスのレリーフ扉は、ルネ・ラリックの作品。床のモザイクもたいそう手の込んだもの。かつて大食堂として使われていた半円形の窓のある空間の壁面は、レオン・ブランショのデザイン。隣の大客室でひときわ目を引くのがルネ・ラリック制作のシャンデリア。ベランダの床は大理石の市松模様。ちょっとした細部の装飾にまで行き届いた様式美でまとめられていて、眺めているだけでため息が出てきます。ジグザグのラインが強調された大理石の手すりと階段を上れば、二階の広間。座り心地の良さそうな造り付けのソファに座って、「ブラジル先住民の椅子」の図録をゆっくり眺めます。

 

 

順路が通常の逆になってしまいましたが、玄関から正面玄関に出て、庭園も散歩してみました。本館二階のベランダから芝庭を眺めていて、青々とした芝生を自動で刈るロボットくんの動きが何ともユーモラスで、撮影スタッフと一緒に可愛い!とはしゃいでいたのですが、(彼は)小屋に戻って充電中でした(なんと、電気がなくなりそうになると、自分でちゃんと小屋に戻って充電するそうです!)茶室のある日本庭園の方にも足を伸ばしてみました。アール・デコ様式の本館やモダンな新館とはうってかわって、こちらは伝統的な和の佇まい。その奥には西洋庭園も広がっています。

 

港区白金台。建物やインテリアを楽しんで、庭を散策し、そのときどきの展覧会でアートに親しむ。ここは、都心の贅沢なオアシスです。

 

写真/前田晃(MAETTICO)

 

◎今月のコーディネイト◎

アール・デコ様式の庭園美術館を意識して、構築的なデザインのトップスをセレクトしました。フリルの大きさに強弱をつけたドリス・ヴァン・ノッテンらしいアシンメトリーなデザイン。合わせたパンツはトップスのボリュームに負けないよう、ギャザーたっぷりのサルエル風パンツ。コム・デ・ギャルソンのものです。

 

 

◎東京都庭園美術館◎

 

昭和58年に開館した東京都庭園美術館は、旧皇族・朝香宮邸として昭和8年に建造されました。大正時代、長期滞在していたフランスで全盛期を迎えていたアール・デコ様式に魅せられた朝香宮ご夫妻は、自邸の建設にあたり、フランス人芸術家アンリ・ラパンやルネ・ラリックに主要な部屋の設計や調度品のデザインを依頼するなど、アール・デコ様式を積極的に取り入れました。“幻の建築”あるいは“アール・デコの美術品”と称されてきた朝香宮邸は、後世に伝えるべき名建築として、平成27年に国の重要文化財に指定されました。

 

平成26年にはホワイトキューブのギャラリーをそなえた新館もオープン。本館の目の前にある開放感あふれる芝庭、茶室と日本庭園、西洋庭園なども含んだ緑豊かな敷地は都心のオアシスとして親しまれています。

 

東京都庭園美術館

〒108-0071

東京都港区白金台5-21-9

お問い合わせ先 03-5777-8600(ハローダイヤル)

 

◎『 ブラジル先住民の椅子 野生動物と想像力 』は9月17日(月・祝)まで 

◎開館時間  午前10時~午後6時(入館は17時30分まで)

◎休館日   毎月第2・第4水曜日(祝日の場合はその翌日)、

       年末年始(12月28日〜1月4日)

◎入館料   展覧会によって異なります、詳細は展覧会ページをご覧ください。

◎庭園入場料 大人200円(団体20人以上160円)

       小学生、および都内在住在学の中学生は無料

 

※詳しくはホームページをご覧ください。

https://www.teien-art-museum/ne/jp/