COVER STORY

TOKYO建築散歩。

vol.1  重要文化財 自由学園明日館


 

ここが、名匠フランク・ロイド・ライトの手になる建物だと知ったのは、たまたまこちらのパンフレットを読んだことから。帝国ホテル設計のため来日していたライトの助手を勤めていた遠藤新氏が自由学園創立者で友人でもある羽仁夫妻に引き合わせ、夫妻の教育理念に共鳴したライトがその校舎建築を引き受けたのだそうです。「簡素な外形のなかにすぐれた思いを充たしめたい」そんな羽仁夫妻の希いのひとつの具現化がこの素晴らしい明日館の建築です。

 

明日館へ来るのは初めてではありません。何度か撮影では訪れているのですが、いつもバタバタっと撮影し、終わればサッと次の場所へ移動する慌ただしいスケジュール。だけど、シンメトリーな建物の配置とホールの窓枠のカタチや食堂に置かれた机や椅子のデザインなどが印象深く、ずーっと心惹かれてきました。

 

今回、少し時間をつくってゆっくり過ごしてみました。

 

 

前庭には青々とした芝生が広がり、そこに佇んでいるだけで気持ちがおだやかになっていくような気がします。ときおり風がすーっと渡り、気持ちよく頬を撫ででいく。まるで小さなオアシスにいるような感覚になり、ここが池袋という都心にあることを忘れてしまいそうになります。

 

いったん敷地の外に出てホールが真正面に見える場所から改めて全体を眺めると、コの字型になった左右シンメトリーの建物がぐぐっと際立ちます。シカゴ万博の日本館として造られた鳳凰殿に影響を受けたともいわれる中央棟から左右に伸びた東教室棟、西教室棟への流れるようなライン。軒高を低く抑えることで水平線を強調した佇まいは、ライトの第一期黄金時代の作風がそのまま具現化されたプレイリースタイル(草原様式)と呼ばれるもので、ライトの故郷であるウィスコンシンの大草原から着想されたそうです。

 

ホール正面の窓には、窓枠や桟を幾何学的に配置し、ステンドグラスをはめこんでいるかのような効果を出しています。限られた工費の中での創意と工夫ということですが、さすがにライトならではのユニークな空間構成になっています。

 

 

講堂の二階はライトミニミュージアムになっていて、明日館の全体像がわかるジオラマが展示されていました。実は、こういうぎゅっと縮小された雛形のようなものに目がない私。実際にこの場の気持ちよさを体感した後で、建築の全体像を把握できると、場の記憶というものがリアルに身体と頭の両方に刻みこまれます。

 

二階奥にある食堂も歴史を感じさせる空間。ライトが設計したのは中央のメインフロアだけで、北と東、西の3つの小部屋は後に手狭になったため遠藤新氏が増築したのだそうです。置かれている古い家具も遠藤新氏のデザインでスリットが入っているのが特徴なのだそうですが、こういうのが自分の部屋にあったらどんなに素敵だろうと思いつつ眺めました。

 

 

ライトが手がけた建築のうち当時の姿で残っているのはここ明日館と芦屋にあるヨドコウ迎賓館(旧山邑邸)だけなのだそうです。関東大震災と第二次世界大戦の戦災からも免れ、平成9年には国の重要指定文化財に指定され、それを機に保存修理工事を経て、当時の姿を復元しました。

 

だけどここが素晴らしいのは、建物を見学できるだけでなく結婚式や音楽会、公開講座、セレモニーなど建物の特徴を活かし空間を活用できる点。建物は使ってこそ維持保存ができるという考えを『動態保存』というそうで、この明日館はそのモデルとして運営されていると知り、ますます素晴らしい場所だと好きになりました。

 

 

◎今月のコーディネイト◎

 

9月はまだまだ暑いけど、シャキッとした気分になれる端正な白シャツに、フォータックでボリュームを出したパンツを合わせました。白シャツはセリーヌの定番デザイン。けっこうな頻度で愛用しています。パンツはセリーヌの秋コレクションのもの。折り返すと白い生地が出るデザインが気に入って買いました。(それに構築的なデザインだから、ライトの建築を見に行くのにぴったり!)足元は去年から活躍しているマルニのファー付きフスベットサンダル。パンツの折り返し部分の白が効いているから、全身が軽やかですっきり見えるでしょう。

白と黒。やっぱりこの組み合わせは、私にとっては永遠の定番スタイルです。

写真/前田晃(MAETTICO)

◎自由学園明日館◎

<利用案内>

◎見学料  600円(喫茶付見学)
      400円(見学のみ)
◎休館日  毎週月曜日(月曜日が祝日または振替休日の場合はその翌日)
◎開館時間 10:00~16:00(15:30までの入館)
※詳しくはホームページをご覧ください。
〒171-0021 東京都豊島区西池袋2-31-3
http://www.jiyu.jp