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嵐電でめぐる京都。

嵐山から北野白梅町まで、小さな旅を楽しみました。


 

京都で唯一残っている路面電車が、嵐電(らんでん)。明治43年に嵐山電車軌道として開業し、以来嵐電と呼ばれ愛されてきました。

 

京都は大好きな街なのでよく来るのですが、移動するのはたいていタクシーで。だから、こんな可愛い電車があるなんて知りませんでした。観光客でごったがえす始発の嵐山から一日フリーきっぷを買い、途中で乗り換え、終点の北野白梅町をめざします。嵐山駅ホームの右手奥には友禅を用いたポール約600本を林に見立てた「キモノフォレスト」が。お天気がよかったので、友禅の林に差し込む光がとてもきれいでした。

 

 

 

ホームに停まっていたのは可愛いパープルカラー(京紫カラーと呼ばれているそう)の電車。一両だけの電車に乗るなんて、かなり久しぶり。なんだかワクワク、心が弾んで妙にうれしい気分になりました。サッサと乗り込み、運転手さんのすぐ後ろに陣取って。今日は撮る人。目の前の風景をしっかりファインダーにおさめようと思います。

 

 

振り向くと電車はいつのまにか満員。車内には、外国語が飛び交っています。その間に、沿線に住んでいる地元の人らしき姿も見えて。観光と生活が、小さな車両に共存している。そう思った瞬間に、京都という憧れの土地がとても身近なものに感じられました。

 

 

帷子ノ辻で北野線に乗り換えると、混んでいた車内はガラガラに。ここから先へ行くのは、わずかな観光客と地元の人だけ。電車は、時折モーター音を唸らせつつ勾配を登ったかと思えば、ぐーっとカーブしたりと、変化に富んだ車窓の景色を楽しめます。線路のほとんどが単線なので、沿線の樹木の緑が車窓に映り込み、身体が緑色に染まります。

 

途中下車したのは、宇多野という駅。手前の鳴滝駅から小さなトンネルをくぐった瞬間に駅が見え、「あ、ここで降りたい!」と急に思い立ったのですが、これが大正解。駅のホームからはさっきくぐったトンネルが絶妙のアングルで見え、最高の撮影ポイントなのでした。ここで少し一休みすることに。ホームには観光客らしき先客がお一人。この人、かなり京都通らしく、ひとり静かに本を読んでいます。お天気はいいし、風は爽快だし、ほとんど人もいないし、最高の読書環境ですよね。

 

 

 

お昼をいただいた嵐山のお店の人がお土産にくださった美味しい桜餅。ホームでつまんで、ちょっとひと息入れました。それにしてもこの駅、本当に何気ない佇まいなんですが、それがかえって何とも言えず昭和の匂い。写真で切り取ると、ここが京都だなんてイメージできないでしょ。ホームのベンチの裏側は、住宅街へと抜ける坂道になっていて、まだ青もみじがみずみずしく植わっていました。

 

 

気持ちのいい風に吹かれていると、電車のゴトゴトという音。だいたい10分に1本やってくるのはさすがに観光地ですね。途中下車しても、余裕のダイヤ。地方の単線だったらこうはいきません。再び電車に乗り込みますが、次の御室仁和寺ですぐまた降ります。ここの駅は、沿線でいちばん風情ある駅舎で、近畿の駅百選にも選ばれているそう。駅正面に立つと真向こうに仁和寺の山門が見えます。せっかくなので、仁和寺に立ち寄ることにしました。仁和寺は別名御室御所とも呼ばれる世界文化遺産。春には遅咲きの御室桜が咲く林があり観光客で賑わいますが、今のシーズンは人もまばら。京都で桜と紅葉のシーズンともなると、どこへ行っても混雑していて、ゆっくり名刹を味わうことが難しいですが、この季節ならそれができる。むしろ、桜が咲き乱れる様子を思い浮かべ、あでやかな紅葉を頭の中でイメージするというのも、なかなか豊かな体験だと思います。

 

 

仁和寺山門の前の道は、龍安寺、金閣寺へと続く「きぬかけの路」と呼ばれています。三つの世界遺産をめぐる全長およそ2.5キロの道をゆっくり散歩したくなりました。(が、それはまた次回のお楽しみに取っておくことにし・・・)「きぬかけ」という名前の由来は、宇多天皇が真夏に雪見をするために衣笠山(別名きぬかけ山)に絹をかけたという故事にちなんでいるそうで、京都らしい歴史に彩られたなんともゆかしい名前にうっとりしました。山門の前に立つと、心地のよい風が脇をすり抜けていきました。古都の涼風。平安時代にもこんな快い風が吹いていたのでしょうか。

 

余談ですが、宇多天皇は無類の好きだったそうです。「寛平御記」という日記には、猫への愛が溢れて止まらない記述があるそうで、同じ猫好きとして親しみを覚えてしまいます。それにしても猫って1200年以上も前から、その愛くるしさで人々を魅了していたのですね。(・・・と我が家の二匹を思い出して、ほっこり)

 

 

仁和寺を拝観した後は、再び嵐電に乗り終点へと向かいます。北野白梅町の駅は、ドーム状の天井に覆われたレトロな空間。一日フリーきっぷを有意義に使ったショートトリップが終わりました。最後の締めくくりに、駅から歩いてすぐのところにある北野天満宮にお参りすることにしました。こちらのご祭神は、あの菅原道真。そう、天神様です。しかも、全国にある天満宮の総本社。学問の神様としても有名ですね。人生まだまだお勉強、しっかりお参りしました。

 

 

 

嵐山から北野白梅町まで、嵐電でめぐる京都。

 

有栖川、帷子ノ辻、常盤、鳴滝、宇多野、御室仁和寺・・・アナウンスされる駅名を聞いているだけでも、古都ならではの旅情に満ちています。途中下車しつつ、思索と散策を楽しむ旅。いつもの観光とは少し違う風景と体験を、心に刻みました。

 

 

写真/中村泰

◎今日のコーディネイト◎

 

気持ちのよい初秋。ブルゾンやカーディガンなしで軽快な装いを楽しめるシーズンですね。今日は、鉄旅なのでシャツとデニムのカジュアルスタイルで。シャツはドリス・ヴァン・ノッテンの新作。ドリスといえば、大胆なプリントという印象があるけど、シンプルなシャツも優秀なんです。これは、後ろをボタンで留めるタートルネックタイプ。このところハマっている襟まわりに表情のあるデザインです。デニムは、少し前のシーズンのセリーヌ。今日は歩きやすさを優先してスリムタイプのものにしました。靴は、去年買ったマルニ。今年も同じデザインのものが出ていますが、黒にグレーのキルトタッセルが効いているので、今日のような無地と無地の組み合わせのときにポイントを作ってくれます。ネイビーのボディバッグは、プラダ。旅するときの頼もしい相棒です。

 

◎嵐電◎

 

嵐電(らんでん)は京福電車の愛称です。

嵐山線は1910年(明治43年)、「嵐山電車軌道」として開業し、「嵐電(らんでん)」と呼ばれてきました。その後、京都で唯一の路面電車として京の歴史とともに走り続けています。

●嵐山本線●

四条大宮から京都観光の人気エリア「嵐山」を結ぶ路線。京都唯一の路面区間を走り、沿線には古代から近代までの名所旧跡が数多くあります。

●北野線●

世界文化遺産の古寺や、平安王朝の時代から室町にかけての古刹名刹が沿線に点在しています。嵐山本線へは「帷子ノ辻(かたびらのつじ)」で乗り換えます。

<利用案内>

◎全線均一運賃   大人220円 こども110円

◎1日フリーきっぷ  大人500円 こども250円

※詳しくはホームページをご覧ください。

http://randen.keifuku.co.jp

 

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