COVER STORY

佃眞吾さんと。

『美しいものをつくる人たちを訪ねて』工芸編(前編)


 

ある日、ギャラリーで手に取った一枚のお盆。

美しいのに、どこか素朴で、木のあたたかみがあって。

それが佃眞吾さんの作品との出会いでした。

日々使い続けているうちに、

暮らしになじんで、けっこうな頻度で活躍している。

すっかりファンになって

個展があると聞けば訪れ、少しずつそろえています。

このウェブマガジンのChiko Cookingでも

すでに2回ほどご紹介しています。

今回、ご縁があってお会いすることができ、

いろいろお話を伺いました。

 

 

 

黒田

作品をたくさんお持ちいただいて

ありがとうございます。

私もお気に入りのをふたつほど持ってきました。

最初に出会ったのがこのお盆です。

ただ、どこでだったのかが思い出せないんです。

 

銀座のギャラリーじゃないですか?

 

黒田

何故か記憶がないの。

すごくいいなとおもっていて、

これは佃さんっていう人が作っているんだと知っていて、

そうしたら銀座のギャラリーでやっているのを何かで知って、

こういうの絶対好きそうな友達がいて、

一緒に行こうって彼女を誘って出かけたんですよね。

で、大きいのを一枚と小さいのを一枚という

中途半端な買い方をしてしまった(笑)。

 

 

これは、我谷(わがた)盆ですね。

 

黒田

我谷盆っていうんですか。

 

石川県の山中温泉の近くにね、

我谷(わがたに)という村があって、

そこで作られていたものなんです。

栗を使ってヘギ板を作る村で、作業のできない冬の間、

残った材でお盆を作っていた。

で、何かの機会に、昔作られたという我谷盆を見て、

それがとても良くて、ああ自分でも作りたいなと思ったんです。

 

 

黒田

独特の味わいがあって、いいですね。素朴だし。

 

素人っぽいのに、どこか手慣れた仕事ぶりでした。

表面のこの削りも、こういうふうに見せようとしているのではなく、

平らに近づけようとしている結果こうなっている。それがいいんです。

 

 

黒田

これは、佃さんの代表作のひとつですよね。

食卓で、何にでも合って、食器も選ばない。

私の生活でも、使う頻度が本当に高いお盆です。

 

昔ながらの我谷盆をそのままやるんではなく、

あまり泥臭くならないようにアレンジはしています。

もともとのものは漆を塗っていないのですが、

今使うものだから僕は漆を塗る。

そのうえで、日常になじむように、

主張しすぎないものにしていく。

 

黒田

その「ほど」がいいんですね。

だから惹かれるのかしら。

 

 

こういう仕事を「くりもの」というんです。

局面、つまりカーブさせたり、カーブを与えたりしつつ、

自由な気持ちで作ります。

で、もうひとつ「さしもの」という仕事があって、

そちらは直線の世界。狂いのない正確さが要求される仕事です。

 

黒田

作品の幅が豊かですね。

「くりもの」と「さしもの」は

正反対のお仕事のように思いますけれど・・・

 

仕事のスタートが京都の家具屋さんだったんです、

ベニヤで作り付けの家具とかを作っていました。

で、あるとき、黒田辰秋さんの息子さんが

やっている木工塾の存在を知り、

週3回夜に通い始めて、

そこで「くりもの」の魅力を知りました。

同時に工藝というものにも出会い、

どんどん深みにはまって、

今度は指物屋さんに10年勤めて、独立しました。

 

 

黒田

キャリアの中で「くりもの」「さしもの」の

両方を経験されたのですね。

 

そうですね。当時はまだまだ木工作家で

生きていくのは難しいと思っていたので、

幅のある技術を身につけた職人になろうと思っていました。

作家ではなかなか食べられないだろうなと。

 

黒田

えー、じゃあ作家になられたきっかけって何かあったのですか?

 

独立した当時は、図面見ながら

オーダーでいろいろ作っていました。

で、あるとき、焼き物の作家さんに

二人展やろうよと誘われて。

で、ギャラリーを借りて、企画して、いろいろ作って。

そうしたら、銀座のギャラリーの方から

個展をしませんかという声がかかって。

 

黒田

あの銀座のギャラリーですよね。

やっぱり、ご縁があったんですね。

私もそこ、何度か行ったことあります。それ何年前ですか?

 

独立して5年は経ってなかったと思うので、

2006年とか2007年ですね。

 

 

黒田

この深いお盆もいいですね。

最初、これを見たとき、

テーブルの上で郵便物を入れておくのにもいいし、

身の回りに置いておきたいなと思いました。

 

 

我谷の煙草盆ですね。

「くりもの」のなかでも、

漆を塗っていないので、素朴な味わいがします。

 

黒田

佃さんは、やっぱりこういうのを

作っている方がお好きなんですか?

 

そうですね。

ちょっと繊細な感じだけど、

ざっくりした魅力も兼ね備えているもの。

ひとつしかできないもの。

で、自分が納得いくまでできるものですかねえ。

 

黒田

お好きな作品には、やはり木という

天然素材ならではのしみじみとした魅力がありますね。

使い込むほどに、手になじむし、

味わいも深くなっていく感じ。

ほんと、いい佇まいです。

 

◎写真/中村泰

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