東京に住んでいながら、実はあまりこの界隈には来たことがありません。上野へは美術館に行ったり、音楽を聴きに来たりするのですが、上野と隣合わせの谷根千へは撮影で何度か来たくらい。今回はお天気も良かったので、少し歩いてみました。スタートは、日暮里駅のすぐ目の前にある谷中ぎんざから。
「谷中ぎんざ」と看板の出ている通りが谷根千歩きの出発点。「夕焼けだんだん」と呼ばれている階段をとことこ下りていきます。この風景、いつかどこかで見たような気がするのは、ここが映画やドラマのロケ地としてけっこう使われているからだと聞きました。だけどそれだでけでなく、階段から商店街を見下ろすと、何ともいえない郷愁のようなものを感じます。町のまわりには高層ビルが立ち並んでいるのに、このエリアだけは昔ながらの古い建物がぎゅっと密集していて、その対比が胸を打つ。こんなノスタルジー漂うエリアが、谷根千にはまだ残っているのです。
商店街の入口にあった美容院の入口がとても可愛くて、思わず中をのぞいてしまいました。きっと昔から、ご近所さんたちに愛されてきたのだろうなと想像しました。まっすぐ歩くと、両側には人気のお惣菜屋さんやお肉屋さん、八百屋さんにドーナツ屋さんに、電気屋さん、かりんとう屋さんなど、バラエティ豊かなお店がズラリ。歩いているだけで飽きません。買い食いしそうになるのを、我慢しつつ・・・。
ぎんざ通りをヨコに入ったところに、なかなか渋いお蕎麦屋さんを見つけたので早めのランチを取ることにしました。まったく予備知識なし。だけど、ここはきっと美味しい!という匂いがしました(笑)。だって、この風情ある佇まいを見てください。大山鶏のお蕎麦をいただきましたが、大正解でした。お店の名前は「千尋」と言います。こちらはランチのみの営業だそうで、もちろん昼間っからお酒をいただくことができます。先客が美味しそうに日本酒を飲みつつ、昼下がりのゆったりした時間を楽しまれているのが印象的でした。
今度は反対側の路地に入り、根津方面へと歩きます。岡倉天心記念公園の前にある「HAGISO」という空間にお邪魔しました。こちらは、築60年の木造アパートを改修した文化複合施設で、1階はカフェ&ギャラリー、2階はホテルのレセプションと設計事務所。すぐ近くには小さなホテルもあります。ギャラリーでは、辰巳雄基さんの「ジャパニーズチップ展」をやっていました。日本全国の飲食店で集めた箸袋のコレクション、それをさまざまなカタチで表現して展示。ひとつのアイテムに特化して蒐集すると、実にいろんな表現ができるのだなあと感心してしまいました。
カフェで、珈琲をいただきました。いちばん奥の窓側の席。ガラス越しに陽の光が入ってきて、ぽかぽかあたたかくて、座っているだけでほっこりしした気分になりました。ここは1955年からアパートとして、2004年からは東京藝大の学生たちによってアトリエ兼シェアハウスとして使われてきたそうですが、老朽化のため解体されることになっていたそうです。建物最後の名残をということで学生たちが大家さんに最後のグループ展をお願いし企画したら、予想外のお客さまが来場され、建物の価値が見直され、取り壊し計画は一転。なんと改修され、今のような複合施設に生まれ変わったのだそうです。残したいものを、残すための努力。どんなことでも決してあきらめてはいけない、そんな勇気をくれるいいお話です。
「HAGISO」の先にある路地を歩いて、蛍坂という素敵な名前のついた坂道を登ります。陽があたたかくて、もう春がすぐそこまで来ているのが肌で感じられます。このエリアのシンボルは、観音寺の築地塀。台東区のまちかど賞というのを受賞している登録有形文化財で、瓦と土を交互に重ねた土塀は、そこの空間だけ江戸時代にタイムスリップしたかのように佇んでいます。築地塀の通りを抜けた先には、こちらもまちかど賞を受賞している古民家がありました。
この少し先に、やはり古民家を改装した施設があると聞き、伺いました。真ん中に井戸をはさんで、三棟の家がまるで長屋のように寄り添っていて、それぞれが天然酵母のビアホールやパン屋さん、オリーブオイルのお店など複合施設としてまるでそこに昔からあるように存在しています。住所が上野桜木あたりなので、その「あたり」を取って施設の名前にしているそうです。いちばん奥にあるパン屋さん「Kayaba Bakery」でパンを買いました。古い建物を上手くリノベーションして、みんなが集う場にするというプロジェクト。谷根千のようなエリアだといっそう魅力度が増しますね。
ぶらり歩きの最後には、大正時代の古民家がそのままカフェになった「カヤバ珈琲」へ。こういう昔ながらのお店がいまだ現役で活躍しているのが、このエリアが人を惹きつける魅力なのでしょう。近代的で、先進的なものだけが、東京の魅力じゃない。谷根千を歩くと、港区や渋谷区とは時間の流れ方が少し違っているように感じるし、ここは江戸や明治、大正時代とひとつづきなんだとも思えます。新しいものと古いものが実にいい按配で共存している谷根千。東京という都市の奥行きを感じる一日でした。
写真/前田晃(maettico)
◎今日のコーディネイト◎
歩く日にはやっぱりデニムですよね。ストレートシルエットが足になじむこのデニムは、ドリス・ヴァン・ノッテンのもの。「王子衿」とヒソカに呼んでいるハイネック&フリル衿のブラウスも、ドリスです。もこもこした質感がお気に入りにのジャケットはプラダ。コートが要らなくなる3月に、こんなジャケットがあると便利です。胸につけているのは、近頃凝っているブローチ。これは革で花びらをかたどったマルニのもの。ネイビーやブルーのワントーンに、セリーヌのスネイク柄スニーカーでちょっと遊びココロをプラスして、カジュアルダウンを楽しみます。
◎谷根千って?◎
谷根千とは、文京区から台東区一帯の谷中・根津・千駄木周辺の地区を指す総称。山手線の内側にありながら、戦災をあまり受けず、大規模開発も免れたため、昔の下町情緒漂う町並みが残っています。
◎谷中 千尋
東京都台東区谷中3-12-22
営業時間:11:30-16:00
定休日:不定休
03-3823-5200
◎HAGISO
東京都台東区谷中3-10-25
8:00-10:30(モーニング営業)
12:00-21:00
定休日:なし(臨時休業あり)
03-5832-9808(CAFE)
◎谷中ビアホール
東京都台東区上野桜木2-15-6
あたり1
11:00-20:30(火~日・祝)
月のみ短縮営業11:00-15:00
定休日:不定休
03-5834-2381
https://www.facebook.com/yanakabeerhall/
◎Kayaba Bakery
東京都台東区上野桜木2-15-6
あたり2
9:00-19:00(火~日)
定休日:月曜
03-5809-0789
◎カヤバ珈琲
東京都台東区谷中6-1-29
8:00-22:30(火~土)
8:00-18:00(月・日)
定休日:なし
03-3823-3545