初めて手にした普段の着物は藍色の綿薩摩でした。
もともとネイビー好きですから、
その色は呉服屋さんでも真っ先に目に飛び込んできたのです。
洋服であれ、着物であれ、藍色にはやっぱり惹かれてしまう。
そんな藍色好きな私に、
「松本に素敵な藍染の浴衣を作る職人さんがいらっしゃるのよ」と
耳打ちしてくれる人がいて、出かけることにしました。
すでに藍染の浴衣は一枚持ってはいるのですが
なにしろ着物を着るのがどんどん面白くなっている今日この頃。
浴衣だったら、気軽に着られるし
藍は大好きな色だから、
着る機会もきっとたくさんありそう・・・
さっそく、特急あづさに乗って松本へやってきました。
藍染工房の少し手前には川が流れていて
逢初(あいそめ)という名の橋がかかっていました。
もともとこの辺で藍染が行われていたことに由来して
こんな名前がつけられたそうです。
ストレートに藍染にせず、逢初という字を当てているのが素敵です。
その逢初橋を渡ってすぐのところに浜藍染工房がありました。
黒田
こんにちは。今日は藍染の浴衣を見せていただきに来ました。こちらではすべての工程をお一人でなさっていると聞きましたが、藍もこちらで建ててらっしゃるんですか?
浜
はい、北海道から蒅(すくも)を取り寄せ、使っています。(※蒅とは、藍の葉を乾燥させ、完全発酵させたもの)
黒田
え、北海道?藍って、何となく徳島っていうイメージがありました。
浜
その徳島の藍を北海道に持って行って育てたものなんですよ。いろいろな藍を試した結果、北海道産に落ち着きました。肥料がいいんでしょうか、葉っぱの色が濃く、いい青が出る。藍を溶かす灰は薪を燃やしてできたものをくれる人がいて、それを使っています。
黒田
灰って、あの灰ですか?
浜
藍の葉を発酵させた染料を蒅(すくも)というのですが、これを溶くのに灰汁を使います。昔はね、灰屋というのがあって、一般の家でも灰を石鹸がわりに使っていました。灰汁につけておくと、茶碗だって綺麗になるんですよ。うちの灰液は川に流してもいいと市からも許可が出ているんですよ。
黒田
それは、自然のものだけを使っているって証ですね。
浜
化学薬品を使うともうそれは本藍染めとは呼べません。型紙で生地に模様をつけるときは、もち米を使います。これも、もち米を煮ただけだから、食べられるんですよ。で、染める前には、大豆をふやかし絞った呉汁と言うのを生地に引きます。
黒田
もち米に大豆ですか。本当に自然のものだけを使うんですね。え~っと、ちょっと整理させてください。浜さんの工程を順番に言うと、そもそもまず型紙があるんですね。
浜
まず、図案を考えるのが最初ですね。で、それを型に彫るんですが、型紙の産地である伊勢でもやってくれるところが今は一軒しかなくて、発注すると時間がかかるので自分でやるようになったんです。白生地に型紙を当て、もち米で作った糊を重ねますね。この糊を作るのがまた大変で、もち米を練って団子にするんですが、粘り気が強いと模様が綺麗につかないので柔らかさを調整するんですが、うまくいくようになるまで8年くらいかかると言われています。
黒田
えー、すごい時間ですね。
浜
こういうのは強制的にやれと言われないとなかなかやらないじゃないですか。20代のときは、とにかく上手くなりたい一心で毎晩8時から夜中までずーっと糊置きの練習をしていました。昼間は父の手伝いをしなきゃいけないので、自分の修行は夜しかできなかったから。
黒田
それは本当に並大抵のご苦労じゃないですね。そうやって積み重ねて来たことがあって、今は全ての工程をお一人でなさっているのですね。
浜
二階で実際の作業を見てくださいね。
黒田
わあ、凄い。こうやって模様をつけていくんですね。
浜
これは糊置きをしているところです。型紙を当て、糊を置いていきます。藍を濃くしたい場合は、糊を厚くしないといけないので、何度も糊を重ねます。これが結構難しいんです。
黒田
濃い藍にしようと思うと何回くらい糊を重ねるんですか?
浜
3回は重ねますね、最低でも。糊置き、黒田さんもちょっとやってみてくださいよ。
黒田
もっとスムースにいくかと思っていたけれど、結構難しいですね。あ、でも糊だけでも、こんなに綺麗なんですね。この連続柄を合わせていくのってすごいですね。気が遠くなりそう。
浜
うまく、平らに塗れましたね。
黒田
この長さで半分ですか?浜さんはだいたい一反塗るのにどれくらい時間かかるんですか?
浜
全部塗るのに1時間半くらい。細いのになると3時間かかる時もありますよ。厚みを変えたらいけないので、綺麗に平らに仕上げることが大事なんです。さあ、それでは藍染をやってみましょう。
黒田
藍染はこの前奄美大島に行ったときもチャレンジしました。藍の色って本当に綺麗ですよね。誰が最初に始めたんだろうって思います。
浜
藍の歴史は随分古いようですね。うちは蒅の状態から藍を建てるのですが、やっぱり生き物ですね。元気なのとそうでないのとがあって、藍甕の表面の泡がぶくぶくと細かく色も紫根色のは発酵もいいし、濃く染まりますね。濃度によって藍の色が違うので、うちでは濃いの薄いので使い分けています。
黒田
だいたいどれくらいの時間つけるんですか?
浜
これはもう勘ですねえ。1分から3分くらい?指先の温度でだいたいわかる。薄い水色にしたいなら1回でもいいけれど、濃い色にする場合は何度も染めていきます。深い紺色にするために20回くらい漬けることもあります。糊の状態を見ながら、どの濃さにするか考え、経験と勘で染めていきます。
黒田
不思議ですね。藍甕から出したときは茶色っぽい色なのに、洗って空気に触れると綺麗な色になるんですね。
浜
この濃さでいいとなったら、呉汁で色止めをします。呉汁も大豆をふやかしてミキサーですって木綿の袋でこします。
黒田
ほんとうに、すべてが天然の素材だけなんですね。手間も時間もかかりますね。だけど、そのご苦労へのご褒美がきっとこのきれいな藍色なんですね。
浜
本当に藍という色はきれいだなとつくづく思います。深い紺から浅い水色まで、豊かなバリエーションがありますしねえ。
黒田
せっかくの本藍染めだから、今日は思いっきり濃い藍の浴衣を見つけて帰りたいな。
浜
じゃあ、あちらで反物をいろいろお見せしましょう。
浜さんのお話を伺って一番驚いたことは、
経験と熟練の技が要求される作業のすべてを
お一人でなさっていることでした。
図案を考え、型紙を彫り、反物に糊を重ね、藍で染める。
それぞれの作業に必要な材料をそろえ、下準備もきちんとなさって。
その細かな作業を傍らで奥様が支えてらっしゃいます。
丁寧で地道な作業をなさっていることに頭が下がる思いでした。
正藍染とは、蒅を灰汁で発酵させる昔ながらの藍建てによる染めのこと。
そこには人工的な材料は一切介在しません。
昔ながらの、自然の素材だけを使うことで
発酵した微生物が表現する美しく深い青が生まれるのです。
藍は生きています。
しっかりと手をかけ面倒をみていても、
その年の藍の出来にも左右されるし
その日の天気の状態によっても色の深みは変わるといいます。
浜さんのご子息がハワイで結婚式を挙げられたそうですが
藍の状態を毎日確かめることができなくなるからと
浜さんは結婚式にも出席されなかったそうです。
丹誠こめて藍を育てられているからこその、
藍への深い愛が感じられるお話でした。
私が選んだ藍の浴衣は、番外編でご覧ください。
写真/内田裕介( MAETTICO )
◎今日のコーディネイト◎
藍に映えるようにと、こんなコットンのブラウスを着てきました。遠目にはピンク色に見えますが、細かな赤と白のチェック柄で、今シーズンのセリーヌのもの。パフスリーブでウエストシェイプされたどこか懐かしいような女の子らしいデザインです。パンツもコットン素材のマルニ。ネイビーとブラウンの配色がおしゃれなマルニのサンダルを合わせました。
◎浜 完治 三代目 ◎
1949 松本市に生まれる
学業後、直に実家の藍染に従事
手織紬を「森島千冴子紬工房」に師事
1994 高崎市染色工芸館藍染3代展
1999 日本現代工芸美術長野会展 入選
2009 長野県工芸美術展 大賞
2010 長野県美術展 入選
2012 松本市美術文化祭 松本市長賞
国内で数人しかいない「長板中形染(生地の表と裏の両面を違う模様で染める技法)」を技術を持ち、型染の技法を駆使し、明治44年の創業以来三代にわたって正藍染の伝統を100年以上も守っています。
◎本藍染『浜染工房』
〒390-0828
松本市庄内2丁目2-41
0263-26-3945
https://hamasome1002.theshop.jp
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