松本には美しい手仕事がたくさんあると聞きました。
7月のカバーストーリーでご紹介した浜藍染工房の藍染めも素晴らしかったですし、まちを歩いているとうつわやガラスなどの工芸を扱うお店が多いのに気づきます。どっしり重厚な昔ながらの蔵づくりのお店、軒先にかごをいっぱい吊るしたお店、ランプばかりを集めたお店、作家の個展を開催中のギャラリー、掘り出し物が見つかりそうなアンティークショップ・・・。松本は民芸のまちとしても知られていますし、毎年5月に行われるクラフトフェアはいまや人気のイベントとして定着しているのだそうです。
民芸と聞いてすぐに思い浮かぶのは駒場にある日本民芸館ですが、その柳宗悦の民芸運動に影響され自らその運動に身を投じた人が松本にはいらっしゃいます。丸山太郎さん。こちらの松本民芸館を創設された方で、工芸作家としても活躍されていたそうですが、昭和11年に駒場の日本民芸館を訪ね雑器の美に触れたことがきっかけで、民芸運動に開眼。以来、柳宗悦を師と仰ぎ、松本の民芸運動の中心的存在として、工芸店の店主、作り手をつとめながらも、すぐれた民芸品を蒐集され、昭和37年にこちらを開館しました。
松本民芸館があるのは、里山辺というエリア。美ヶ原温泉入口の小高い丘に位置し、雑木林に囲まれています。長屋門をくぐれば、石畳が敷き詰められ、母屋まで誘導してくれます。途中には石の道しるべ。てっぺんに座った可愛らしい仏様が出迎えてくれました。母屋の外壁は白漆喰塗りで、正面の壁は黒の腰瓦、なまこ壁で仕上げられています。ちょうど壁の前に木のベンチがあったので、座って気持ちのよいお庭を眺めました。
いよいよ母屋にお邪魔します。玄関を入りまっすぐ進むとリビングルームのような空間があって、思わず「わあ、素敵」と声が出ました。手前は板の間で、テーブルのまわりにはひとつひとつ形の違う椅子が並べられています。イギリスのウィンザーチェアやアメリカのラダーチェアなど、同じデザインのもので揃えなくてもいいという素敵な見本です。むしろ、微妙にデザインが違う方が全体として調和している気すらしてきます。それぞれの座面には、幾何学模様のチェアラグが敷かれていて、それもインテリアのポイントになっています。板の間の奥は一段高くなったお座敷で、箪笥や長火鉢、衝立などがさりげなく置かれています。お座敷に腰掛け、この空間が醸し出している独得の雰囲気を味わいます。家具や調度品のひとつひとつが、丸山さんの「美しいもの」フィルターで集められている。こんなものたちに囲まれ、日々愛着をもって使いこなせたら、と想像します。
このリビングのような空間がある展示室は2号館と呼ばれ、松本の老舗菓子店が所有していた土蔵を移築したもの。二階に上がると、古い木の梁や天井の木組みに圧倒されます。展示されているものも、古い箪笥や石仏、石像、大きな壷などどっしりと重厚さのあるものばかり。壁の両サイドにかけられているのは蓑(みの)と背負蓑(せおいみの)で、とても美しい手仕事です。
その隣の部屋では、ガラス作品のコレクションが展示されていました。美しい形のデカンタ、花瓶、ワイングラス・・・。何ともいえないニュアンスたっぷりのやさしい色の連なりにもうっとり。(松本から帰る前に立ち寄ったギャラリーで、偶然にもここに展示されているガラス作家さんのもとで修業したという人の個展をやっていました。思わずグラスを買いました。)
そのままホールを通って1号館の展示室へ向かいます。私が伺った日は、ちょうど松本市市制施行110周年記念の「松本民芸館名品展」の開催中で、収蔵品の中でも名品と呼ばれるものが数多く展示されていました。最近、京都の骨董屋さんで高麗青磁の油壺を手に入れたこともあって、朝鮮半島のうつわにも興味が出てきました。だから、李朝時代の白磁の壷が陳列棚にずらりと並んでいる様子にときめいて、垂涎というのはまさにこんなときに使う言葉なんだと実感しました。
展示室のいちばん奥の窓からは、天気が良ければ乗鞍岳、蝶ヶ岳、常念岳と連なる北アルプスの山々が見渡せるとあって、窓に向かった椅子に座ってゆっくりくつろぐ人が多いのだそうです。
飾り棚を見ていたら、水引のようなとてもきれいな飾りがありました。現在館長を務める田中有規子さんにお話を伺うと、これは、松本のお神酒の口というもので、宝船や松などの形に編み上げた竹細工をお神酒徳利の口に二つ一組で挿すのだそうです。福を呼ぶという縁起物で、松本に古くから伝わる美しい手仕事です。展示されている飾りの中には、東京都青梅のものもありました。
煙管のコレクションもとても充実していました。先の火皿や雁首と呼ばれる箇所の形がとても多彩で美しく、煙草入れも漆塗りやこより細工、鮫皮のものなど意匠を凝らした洒落たデザインが揃っています。今では歌舞伎や時代劇ぐらいでしか使っているところを見ることはできませんが、昔の人はこういう持ち物ひとつにこだわったのだろうなと想像しました。
松本民芸館。創設者である丸山太郎さんは、柳宗悦の民芸運動に影響を受け、自らも心のこもった蒐集をなさってここを創設されました。昭和58年には、土地・建物を含め約6,800点にも及ぶコレクションを松本市に寄贈されました。「美しいものが美しい」をモットーに、生涯をかけて蒐集された美しい手仕事たち。丸山太郎さんは、「いくら理論が整然としていても、物の美しさがわかっていても、実際に物を持ち、使い愛さなければ美しい生活とはなり得ない」と民芸のある暮らしを実践したそうです。
長く大事に使われたものには、何とも言えない艶がありました。使いこんだからこそ生まれる良い味というのでしょうか。今の消費社会を少し反省し、私も自分自身のフィルターで選んで使っているものを大事にしていきたいなと心から思いました。
民芸館の一階には、丸山太郎さんの写真とともに、次の一文が掲げられています。
美しいものが美しい
では何が美しいかと申しますと色とか模様とか型とか材料とか色々あります
その説明があって物を見るより無言で語りかけてくる物の美を感じることの方が大切です
何時何処で何んに使ったかと云うことでなくその物の持つ美を直感で見て下さい
これはほとんど無名の職人達の手仕事で日常品です
美には国境はありません
丸山太郎
写真/内田裕介(MAETTICO)
◎今日のコーディネイト◎
民芸館の雰囲気に合うかしらと、今日は全身黒のワントーン。トップスはブルネロ・クチネリのニットです。インのシルクのキャミソールはニットとくっついていて、着やすいんです。コットンのスカートは、トレンチコートを切ったようなデザインでラップ風のベルトがついたもの。ドリス・ヴァン・ノッテンらしい遊び心があるででしょう。シューズはセリーヌのVネックパンプス。ぺたんこではきやすいので、近頃のヘビーローテーションです。
◎松本民芸館◎
松本民芸館は、故丸山太郎氏が「民藝をみるたしかな目」で優れた民芸品を蒐集され、昭和37年(1962)に独力で創館しました。「無名の職人たちの手仕事で日常品」であるものに美をみる民芸の心が、丸山の「美しいものが美しい」という書によく表れています。
昭和58年(1983)に松本民芸館の土地、建物を含め、約6,800点にお及ぶコレクションが松本市に寄贈されました。松本市では丸山の意志を継ぎ、市立博物館分館として運営をしています。
常設展では、膨大な収蔵品のうち約700点を展示しています。水甕(みずがめ)・猪口(ちょこ)・壺・漆器・銭箱・箪笥(たんす)・郷土玩具などが、土蔵風の建物の中にしっくりと配されています。日本のものばかりでなく、世界各地の陶磁器・木工品・染織品・ガラス器・民族衣装なども展示しています。
松本市立博物館分館
松本民芸館
〒390-0221
長野県松本市里山辺1313-1
TEL・FAX:0263-33-1569
◎開館時間 午前9時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
◎休館日 毎週月曜日(休日の場合はその翌日)
年末年始(12月29日から1月3日)
◎入館料 大人300円(団体20人以上200円)
小中学生、70歳以上の松本市民は無料
※詳しくはホームページをご覧ください。
※民芸という表記は、民藝と表記されることもありますが、ここではすべて民芸と統一しました。柳宗悦の民藝運動などと表記するときは、藝を使うのが一般的なようです。
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